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3.自然界に存在する放射線

3.自然界に存在する放射線


自然放射線と人工放射線

放射線には、人類の誕生以前から地球上に存在している「自然放射線」と、X線のように人間が人工的に作り出した放射線や、人工的に作った放射性物質からの放射線などの「人工放射線」の2種類がある。ただし、それぞれの放射性物質から出る放射線はまったく同じものだ。たとえば、自然界に存在する天然の放射性物質カリウム40も、人工的に作られた放射性物質コバルト60も、ともに線と線を出す。強さや量の違いはあるが、放射線の性質や物質に与える影響は変わらない。

自然放射性物質
<<図4>>放射性物質から出る放射線 自然放射性物質

人工放射性物質
<<図4>>放射性物質から出る放射線 人工放射性物質

カリウム40もコバルト60もともにβ線とγ線を出して安定した物質に変わる。このときに放出されるβ線やγ線はまったく同じもので、自然放射性物質と人工放射性物質による違いはない。

出典:「生命と放射線-ホルミシスってなあに」 新しい放射線の知識を学ぶ会、(社)日本電気協会新聞部 発行
«図4»放射性物質から出る放射線

自然放射線の種類

自然放射線にはいろいろな種類があるが、大きく分ければ、宇宙からくるもの、大地からくるもの、食べ物からくるものの3種類に分けられる。また人間は生まれたときから、体内に放射性物質をもっており、体内からの放射線も浴びている。

«表2»自然放射線の種類とその受け方(1)宇宙線(外部被ばく)(2)宇宙線で生成される放射性物質からの放射線(内部被ばく)(3)天然に大地に存在する放射性物質からの放射線(外部被ばく)(4)食物摂取により体内に取り入れられた放射性物質(主にカリウム40 )から受ける放射線(内部被ばく)(5)ラドンとその壊変生成物の体内への吸入により受ける放射線(内部被ばく)

(1)宇宙からの放射線

地球の外部から地球大気中に飛び込んでくる高エネルギーの放射線を一次宇宙線といい、それが地球大気に入射して相互作用を起こし発生する二次粒子や電磁放射線を二次宇宙線という。

一次宇宙線の起源については、完全にはわかっていないが、観測されるものの多くが銀河で発生していることは知られている。これを銀河宇宙線という。また太陽もフレアに伴って太陽宇宙線を発生させている。一次宇宙線の大部分は陽子で、ヘリウムイオンが約10 %を占めている。二次宇宙線は、ミューオン(素粒子の一種で粒子ともいう)、電子、中性子、線などを含んでいる。

宇宙からの放射線の強さは、同じ地球上でも場所によって異なる。地磁気の関係で、北極、南極では赤道よりも放射線の量は多い。宇宙線は空気に吸収されていくが、地上高度が上がるにつれて空気が薄くなるため、高度が高い地域の方が、海岸線に比べて放射線の量は多い。

<<図5>>一次宇宙線と二次宇宙線
«図5»一次宇宙線と二次宇宙線

*〔放射線の単位〕

放射線に関する単位は、大きくベクレル、グレイ、シーベルト3種類がある。

放射能の強さを表わす単位
ベクレル(Bq)…
1秒間に1個の原子核が壊変するときに出る放射能の強さをいう。放射性物質の種類や放射線の種類には関係ない。1ベクレルの放射能をもつ放射性物質がどれくらいの重さになるかは、質量数と半減期によって決まる。
放射線のエネルギーの吸収を表わす単位
グレイ(Gy)…
1kgあたり1ジュールのエネルギーを吸収したときの線量(吸収線量)をいう。物質や組織が放射線のエネルギーをどれくらい吸収したかをあらわす。
放射線の生物学的影響を表わす単位
シーベルト(Sv)…
1グレイのγ線によって人体の組織に生じるのと同じ生物学的影響を組織に与える放射線の量をいう。人体が放射線によって受ける影響は、部位や放射線の種類によって異なるため、γ線を基準にしている。生物に対する影響をあらわすときに使う単位。

«表3»放射線に関する単位線量名単位名記号定 義S1 単位放射能ベクレルBq1秒間に1個の原子核が壊変している放射性物質1 Ci(キュリー)= 3.7 ×1010Bq吸収線量グレイGy1kgあたり1ジュールのエネルギー吸収があるときの線量1 rad (ラド) = 0.01Gy線量当量シーベルトSv吸収線量に線質係数と修正係数をかけたもの1 rem (レム)= 0.01Sv«表4»宇宙線による年平均実効線量地域
(高高度地域)人口
(百万人)高度
(m)年実行線量(μSv)電離成分中性子合計ラパス(ボリビア)1.0390011209002020ラサ(中国)0.336009707401710キトー(エクアドル)11.028406904401130メキシコシティー(メキシコ)17.32240530290820ナイロビ(ケニア)1.21660410170580デンバー(米国)1.61610400170570テヘラン(イラン)7.51180330110440海 面  24030270世界平均  30080380

出典:国連放射線影響科学委員会報告(1993)

(2)大地からの放射線

放射性物質は地球が誕生したときから存在している。その主なものはカリウム40、ウラン238、トリウム232で、このほかにルビジウム87、ウラン235などがある。

これらの放射性物質のうち、ウラン238やトリウム232などは地球の年齢と同程度もしくはそれよりはるかに長い半減期があるため、すべての生物は今後も大地からの放射線を免れることができない。

このうち、カリウム40とルビジウム87は、一度壊変すると、放射線を放出しない安定な物質に変わるが、ウラン238、トリウム232、ウラン235などは、次々に放射線を出して別の放射性物質に変化していき、最終的に放射線を出さない安定した鉛になる。

これらの放射性物質の含有量は地質などによって異なる。花こう岩地帯では土壌や岩石にカリウム40やウランなどが多く含まれているため、大地からの放射線が強い。

«表5»土壌や岩石中に含まれる天然の放射性物質放射性物質の種類放射能濃度(ベクレル/kg )一般の土壌・岩石花こう岩カリウム40100~700500~1600ウラン238 (娘核種を含む)10 ~5020 ~200トリウム2327 ~5020 ~200

出典:国連放射線影響科学委員会報告(1982)など

«表6»世界各地における年間積算線量の例(ラドンを除く)国名空間線量のみ
(ミリシーベルト/年)備考オーストリア0.47~0.56 フランス{0.47~0.9
1.8 ~3.5石灰岩
花崗岩と頁岩日本{0.23 ~0.37
0.79 ~1.19関東ローム
花崗岩と地域スウェーデン{0.7 ~1.0
0.6 ~1.2
0.5ストックホルム街路
火成岩
粘土イギリス{0.18 ~0.61
0.77 ~1.55堆積岩または粘土
花崗岩地域アメリカ0.45 ~1.323 州での測定インド1.31 ~28.14ケララ地方ブラジル~12.0ミナミ地方

出典:主として「放射線化学1971-6月」(放射線医学総合研究所編)

新幹線でγ線を計測した実験などからも、場所や地域によって放射線の強さが異なることがわかる。たとえば、東海道山陽新幹線の場合、博多-東京間を見ると、平均的に関西・中国地方で値が高い。これらの地方に花崗岩地帯が多いためだ。

トンネル内で値が高くなるのは、四方の岩石中に含まれる放射性物質から線を受けるためで、また川の上(鉄橋など)で値が下がるのは、大地からのγ線が水で弱められるためだ。

<<図6>>東海道山陽新幹線内における放射線(ガンマ線)強度の変動

<<図6>>東海道山陽新幹線内における放射線(ガンマ線)強度の変動

<<図6>>東海道山陽新幹線内における放射線(ガンマ線)強度の変動

(cpm :1分間当たりのカウント数)計数管などの検知器部分に1分間に飛び込んできた放射線の数
出典:岡野真治、理化学研究所データ、アイソトープ・ニュース(1980年7月号)「生活と環境の放射線とその測定」
«図6»東海道山陽新幹線内における放射線(γ線)強度の変動

<<図7>>東北新幹線内における放射線(ガンマ線)強度の変動

<<図7>>東北新幹線内における放射線(ガンマ線)強度の変動

(cpm :1分間当たりのカウント数)計数管などの検知器部分に1分間に飛び込んできた放射線の数
出典:岡野真治、理化学研究所データ、アイソトープ・ニュース(1982年11月号)「東北新幹線車両内での放射線測定」
«図7»東北新幹線内における放射線(γ線)強度の変動

<<図8>>上越新幹線内における放射線(ガンマ線)強度の変動

(cpm :1 分間当たりのカウント数)計数管などの検知器部分に1分間に飛び込んできた放射線の数
出典:岡野真治、理化学研究所データ、アイソトープ・ニュース(1983 年3 月号)「上越新幹線車両内での放射線測定」
«図8»上越新幹線内における放射線(γ線)強度の変動

(3)食べ物からの放射線

大地や海水中に含まれる放射性物質は、野菜や魚などに吸収され、食べ物を通して体内に取り込まれる。人間はだれでも体内に数種類の放射性物質をもっているが、代表的なものはカリウム40である。人体はほぼ一定割合(約0.2%)のカリウムを含んでいるが、大部分は放射線を出さないカリウムで、放射線を出すカリウム40はこのうち0.012%程度含まれる。このように食物摂取により体内に取り込まれた放射性物質からの放射線の量は、1年間に約0.35ミリシーベルト程度になる。

«表7»人体中の放射性物質と放射能放射性物質濃度
(ベクレル/kg )全身の放射能
(60キログラムの人のベクレル数)カリウム40674,100炭素14412,600ルビジウム878.5520鉛210またはポロニウム2100.074~1.519ウラン238-1.1

食物や肥料中に含まれるカリウム40 の放射能濃度
«図9»食物や肥料中に含まれるカリウム40 の放射能濃度
出典:国連放射線影響科学委員会報告(1982 )など

(4)ラドンからの放射線

自然放射線の中で忘れてはならないものにラドンからの放射線がある。ラドンは空気の7.5倍もの重さをもつ気体で、ウラン238やトリウム232の壊変によって生じる。ラドンは世界中どこでも大地からしみ出してくるが、地域によって大きく異なる。

人間に影響を与える放射線の大部分は室内のラドンによるもので、気密性の高い建物ほど室内のラドン濃度も高くなる。また水や天然ガスなども室内のラドン源となるが、建材や建物下の土壌などと比べると、その影響は小さい。国連科学委員会では、ラドンおよびその壊変生成物から受ける放射線の量は、1年間に1.3ミリシーベルトと見積もっている。

ただし、日本では木造家屋が多く石造りの住居が少ないことなどから、平均で年間0.4ミリシーベルトと報告されている。

<<図10>>標準的な家庭での様々なラドン源の相対的な寄与
出典:国連放射線影響科学委員会報告
«図10»標準的な家庭での様々なラドン源の相対的な寄与

1年間に受ける自然放射線の量

自然放射線の量は、地域によって、また摂取した食物の量によっても大きく異なる。高度の高い地域や、放射性物質を多く含む地質上に住む人々、魚介類を大量に食べる人々などは、放射線量は高くなる。

宇宙線および大地からの放射線、食べ物による放射線などの自然放射線の量は、日本では1年間に0.8~1.25ミリシーベルトに達する。宇宙線からの放射線は緯度によって異なるが、その差はわずかであり、また食物からの摂取量も一定とすれば、大地からの放射線による違いが大きい。

西日本は東日本より、1.5倍ほど放射線の量が高い傾向があるが、これは西日本は花こう岩が直接地表に露出しているところが多く、東日本より自然放射線の値が高くなるためである。

<<図11>>県別の自然放射線の平均
«図11»県別の自然放射線の平均